ワシントンで月見

そもそも、花見が雨だった。

 

「桜吹雪の中で能を観ながら花見がしたい」と思いたち、知り合いに能楽師を紹介していただいた。

辰巳大二郎さんという若手イケメンの能楽師だ。

で、遠く会津や龍野からも友人たちを誘い、枚方にある桜の名所牧野公園での花見である。

当日は、大雨だった。

なんてことだ! と、暗い空を見上げてがっかりである。

 

急遽、僕たちは割烹『一の谷』に移動し、大きな桜の樹を一本なんとか手に入れた。

その桜を部屋の真ん中に飾る。

飾るとなんだか楽しくなってきた。

開け放した窓から雨の匂いが入ってくる。涼しい春の風だ。

雨音がむしろ心地よかった。

 

舞台で大二郎さんが能を舞う。

部屋の真ん中にいけてある桜の樹が美しい。

終わると、みなに能の体験をしてもらう。能面をつけたり、衣装をつけたり。

宴は大成功に終わったと思う。

 

「晴れた桜の下で、能を観たかったですね」

宴が終わり片付けをしている大次郎さんに、僕は言った。

「秋の月見の能もいいものですよ」

大二郎さんが、能の衣装をゆっくり畳みながら言った。

確かに、それもよさそうである。月と能は、とても幻想的だ。

千人の月見の宴がこの時決まったのである。

 

「秋に月見をやろう」と、人がいなくなった部屋で僕は事務局の広瀬に言った。

「なんで?」と、広瀬が面倒くさそうに言った。

「月を観ながら能を見たいだろ」

「人を呼ぶの大変だよ」

「そりゃそーだけど」と、僕が言った。

「30人くらいならできるんじゃない」と、宴が終わり誰もいなくなった部屋を出ながら広瀬が仕方ねーな風に言った。

「どうせなら、ワシントンでも月見がしたい」と僕が言った。

広瀬は答えなかった。

観たいでしょう? と、僕はココロの中で繰り返していた。

 

文:月見の宴実行委員会 代表 紙本櫻士

 

 

千人の月見の宴

 

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