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僕の神さま

僕の神さま 第四回

 

「生徒会長に立候補しろよ?」と、やまちゃんがボクに言った。
昼休みの美術準備室でのことだ。
やまちゃんは、美術の先生でクラスの担任だった。
たいていの場合、やまちゃんは絵の具で汚れた白衣を羽織りタバコを吸いながら話す。今も灰皿に捨ててある折れ曲がったタバコに火をつけ、冷めたお茶が入った湯呑みに口をつけていた。やまちゃんは、タバコが吸えない職員室が、嫌いなのかもしれない。

「なんで俺なんですか?」
「オマエ意外と顔広いし、走るの早いじゃないか」
「関係ないし」
「オマエがええと、思ったんや。直感、直感。3組の宮田には勝てるやろ」
副会長だった千夏がでるらしい。
そう言うと、チビたタバコを吸い煙を吐いた。煙が輪になっている。
「オマエ、クラブやってた?」
卓球部だと答えると、やまちゃんは腕を組んで「地味やなぁ」と、呟いた。
「美術部入れよ」
勧誘かよ。
「もう、二年ですよ。俺、部長だし」
生徒会長なんて立候補できない。
ボクが断ると、やまちゃんは興味なさげに「まぁ、考えといてや」
と、机の前に置いてあった古い絵の具の筆をいじりながら言った。

美術室を出ると、だーうえが近づいてきた。
「呼び出しか?」
ボクは、呼び出し食らうようなヘマはしない。悪いけどね。
「生徒会長に立候補しろと、やまちゃんに言われてん」
「でるん?」
「なんでや」
だーうえは、しばらく黙っていた。
「俺、ヨーキョーに立候補したいって言ってん」
だーうえの担任だ。
「オマエはあかん。と言われてしもた」
勉強もできへんし、インキャやから向いてない。と嫌味のように言われたらしい。だーうえは、運動も苦手だ。というか得意じゃないくらいだけど。ヨーキョーは体育教師だから、だーうえは受けが悪いのだ。
「俺、一度くらいはスポットライト浴びたいねん」と、だーうえが言った。
おい、その程度でいいのか?

「立候補しろ」と、ボクはだーうえに言った。
「できるん?」
「当たり前や。しろ、出馬」
「受かるんか?」
「俺は、やまちゃんから立候補しろと言われたから、つまり、俺は与党の公認候補だったんだ。断ったけどね。副会長やってた3組の宮田は、そーだな、前職」
「千夏でるんか」
「やまちゃんが、言ってた」
「オマエは、無所属で出馬しろ」
「選挙みたいやな」
「選挙やろ」
「俺が、選対本部やる。選挙活動や」
だーうえが、困ったような顔をしていたけど、もう、やめるわけにはいかない。

つづく

文:紙本櫻士