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ボクの神様 14

交野新聞連載「ボクの神様」

 

14

「俺って、お金持ってるやん」
と、伸ちゃんが言った。
忘れていたけど、10億円ほどある。
「いくら使った?」
「それが、ほとんどそのままなんだ。なんだか、怖くて」
「なんだよそれ」
「選挙にお金がいるかと思ってたんだけど、減らないんだ」
「じゃぁ、使ってみたら、試しにさ」
「そう思って、さっき、杏の駄菓子を大人買いしてきた」
伸ちゃんの部屋にあるテーブルに、駄菓子屋で買ってきた杏の箱が3つ置いてあった。
「小学生の頃、腹いっぱい食べたいと思ってたんだ。大好きなお菓子でさ。で、箱の半分食べたら、吐きそうになったよ」
伸ちゃんはそう言うと、舌を出して僕に見せた。
舌が、オレンジ色になっている。
「無駄遣いしちゃったな」
「それくらい使っても、バチは当たらないと思うよ」
「選挙にはお金はいらないって言うしなぁ。でも、10億円を、持ってるだけってのも罰当たりなような」
「無理に使うことないと思うよ」
「有意義に使いことなんてないさ。無駄遣いは、楽しいぞ」
神さまが言った。
「いつからいたん?」
と、伸ちゃんが訊いた。
神さまは、いつも突然現れる。
「ずっと、おったで」
「あの、10億円ってさ、神さまがくれたの?」
「微妙に違うなぁ。俺は、奇跡なんかおこせないわけだよ」
「神さまなんでしょう?」
と、僕が訊くと、
「この世界では、そう」
「この世界って? じゃぁ、サクッと当選させてよ」
「それができたら、俺は天才なんだが」
なんだか、頼りない。
「でも、10億円は神さまでしょう?」
「俺は、面白いものを見たいだけやで」
「10億円って使いづらいね」と、伸ちゃんが言った。
「投資して増やすのは?」と、僕が言うと
「それって、もっともつまらんヤツやんけ」
と、神さまが不満そうに言った。



キムジーがポスターを見せに来た。
ジャージで無精ひげをはやした写真だけど、迫力というか、説得力がある。どういうわけだか、なかなかいい線いってる。
『斎藤しんいち』
名前だけのシンプルなポスターだった。
「公約とか書かなくていいの?」
と、キムジーに僕は訊いてみた。
「いらんいらん」
「いらんいらん」
と、いつの間にかキムジーの後ろにいるトゥさんたち3人もハモって言った。
「選挙は、名前を書くだけさぁ」
と、キムジーが言った。
「『若いチカラ』でもええで」
「若くないけど」
「わしより若い」
と、キムジーが言うと、
トゥさんたちが、笑った。