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小説『ボクの神様』 連載7回目

『ボクの神様』 7

 

ほら。
と、冷たい缶コーラを伸ちゃんが投げてよこした。
部屋に遊びに来ると、飲み物を奢ってくれる。たいてい、缶コーラなんだけどね。
伸ちゃんは、微糖と書かれた缶コーヒーを一口飲むと、財布から2千円取り出した。
「くれるの?」
「そーじゃない。銀行から残りの2千円下ろしてきたんだ」
昨日、3千円下ろしたから残りが2千円なのだ。
伸ちゃんは、銀行の明細書を僕に渡すと、
「すごいだろう」
と、僕に言った。
見ると残高が、10億円と8円になっていた。8円は、多分利息だ。
「こんなの変だよ」
「変じゃない」と、伸ちゃんは小声で言った。
伸ちゃんは、缶コーヒーを一気に飲み干すと、
部屋の窓枠に腰掛け、ジャージのポケットからタバコを出してマッチで火をつけた。
タバコは、エコーだ。安いタバコだけど旨いらしい(伸ちゃんが好きだった俳優も吸っていた)。
コーヒ缶を灰皿代わりに、左手でトンっと窓枠に置く。
どこか得意げに見えた。
「宝くじが当ったんだよ」
「宝くじは買わないって言ってたやん」
「でも買ったらしい。単発で3つとも当たってた」
「変!」
「現に振り込まれている」
タバコを消して缶に吸い殻を入れると、缶の底からジュッと小さな音がした。
伸ちゃんは、宝くじは買わない~と、変な歌を口ずさんだ。
「ところが、ーーーー怖くて引き出せない」と、困ったような顔をして言った。
「なんでやねん?」
「10億円切ったら、たちまちなくなりそうやろ。だから、残りの2千円を引き出してみた」
「1万円崩したら、なくなるのとは分けが違うよ」
「いい気になって、破産したとか言われたくないし」と、心配そうに言った。
伸ちゃんが10億円持ってるなんて、誰も興味ないし、普通に使えばいい。
伸ちゃんはタバコに火をつけると、窓の外をしばらくぼんやり見ていた。
おじさんは、浮足立っている。たぶん、そんなとこだ。



「どうするかなぁ」
振り向くと、神様が部屋の隅で体育座りをしていた。
びっくりした。
神様は突然現れる。神様だから仕方ないのかも知れない。
「伸ちゃんあのお金、どうするか」
神様は、独り言のように呟いた。
「2千円下ろして、ビビっているくらいだから。利息でタバコ買うくらいかも」
「それじゃぁ、つまらない」
「当ててくれた?」
そんな気がしていた。
「たまには、願い事が叶う」
答えになっていない。けど、どうなんだろう。
「なんだかなぁ。とにかく伸ちゃんに会ってくる」
そう言うと、神様は消えた。
不思議だけど自然に消えるんだ。けど、本当なんだよ。

つづく

 

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