ボクの神様 第6回
「選挙戦は、始まっているんだ」
僕は卓球部の部室で、会長候補のだーうえに言った。
卓球部の部室が、選対本部だった。部長が僕だから、自由がきく。
ホワイトボードを理科準備室から拝借してきたから、部室は選対本部風になっていた。
ボードに『上田悠太 選挙対策本部』と、大きくタイトルが書かれている。
「なんで、あたしが呼ばれてるの?」と、クラスメートの芽衣が言った。
セーラー服に、少し短くしたスカートをはいている。芽衣とは幼稚園の頃からのつき合いだ。
「ウグイス嬢が、必要だろ?」と、僕が言った。
「中学の選挙にウグイス嬢はいらねーだろ」と、怪訝そうに芽衣が言った。
「僕も、そう思うよ。悪いし」と、だーうえが言った。
「えーか? だーうえには人望がない。人気もない。ぱっとしない。ルックスだって、いまいちだ。候補として圧倒的に弱いねん。
現職副会長の千夏は、可愛いし、成績だっていい。僕にも廊下で、ええ感じで挨拶するで。ファンクラブだってある。どうよ!」
僕は、ホワイトボードに、人望、人気、ルックスに問題あり。と、書いた。
だーうえと、千夏の写真をボードの上に磁石で貼り付ける。
「刑事ドラマの容疑者みたいやん」と、だーうえが言った。
「あのこ、そんなにいいヤツちゃうで。男子の前で、声、変わるし」と、芽衣が言った。
「ポスターは、漫研のハッチョに頼む」と、僕が言った。
「描いてくれるん?」と、だーうえが言った。
「あいつ、芽衣が好きなんだ。だから、ウグイス嬢の芽衣が頼めば、嫌とは言わない」
「ウソ! 誰が、ウグイス嬢やねん。なんであたしやねん」
「まぁ、聞け。今回は、総力戦なんだ。絶対、勝ちたい。僕はサッカー部とテニス部、卓球部も、とにかく顔が利く運動部の男子票は、固める」
「すげーな、亮ちゃん」と、だーうえが他人事のように言う。
「なんかあるだろ、会長になってやりたいこと」と、僕はだーうえに訊いた。
大丈夫なのか、だーうえ。
「冷水機が欲しい。テニスコートに」と、芽衣が言った。
「もう、利権かよ! とにかく分かりやすく3つ書け」と、僕はだーうえに言った。
チラシを作ろう。目立つやつが欲しい。運動員もいる。
「女子の票はどうする?」と、だーうえが言った。
「芽衣が、運動部まわれよ」
「あたしがするのかよ」と、芽衣が面倒くさそうに言った。
僕はホワイトボードに、女子は芽衣担当と書く。
「ねぇ、なんで会長なんかやりたいの?」と、芽衣が訊いた。
「オマエが担任のヨーキョーにやりてぇって言ったんだろ」
「でも、やめとけって言われて」と、だーうえは小さな声で言った。
「どうせやるなら、当選だ。選挙というか、選挙ゲームやな」
「亮ちゃんが、そう言うなら…」
「選挙ゲームかぁ。上田会長、冷水機よろ!」と、芽衣が言った。
つづく
文:紙本櫻士
【人気記事】
コメントをお書きください