
小説書いてくれない?
と、交野新聞社長に依頼されたので、書くことになった。
隔月発行なので、話はなかなか進まないけど、楽しんで書いている。
というか、締め切り日に何とか書き上げた。
最近、綱渡りが続いている。
タイトルは、『ボクの神様』に。
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ボクの神様
ボクには、一緒に住んでいる叔父さんがいる。
同じ屋根の下で暮らしてなくて、みんなが『離れ』と呼ぶ六畳一間に、叔父さんはひとりで暮らしていた。
ボクの家は、カタノ市の農家だ。
農家と言っても、お父さんは会社に勤めていたから、兼業農家ってやつだ。庭が無駄に広いけどオンボロな家なので、きっと、ボクんちは貧乏に違いなかった。
軽トラがやっと走れるような細い道に、今にも崩れそうな屋根つきの門があって、くぐると雑草がはびこった庭に出る。夏なんか、草でボウボウだ。
街の発展に取り残されたような家が、ボクはかっこ悪かった。
今日は土曜日で、中学校は休みだ。
「亮ちゃん」と、お母さんが階段の下から呼ぶ声がした。
朝ごはんができたらしい。
「何度も呼んでるのに、耳が悪いの?」と、お母さんはボクの顔を見るなり言った。
「メールの返事してたんだ」
ボクはキッチンにあるテーブルの定位置に座り、冷たい牛乳をひとくち飲んだ。
グズグズしているとお母さんの小言が始まる。今朝は、特に機嫌が悪いようだった。
さっさと食事をすませ、ボクは離れに避難することにした。
叔父さんの部屋にはゲームや漫画がたくさんあって、勝手に遊んでていいのだ。
離れは縁側みたいな横開きのサッシが、玄関代わりだった。
部屋自体、外なのか内なのか曖昧な作りだ。
季節が良い時は、網戸も閉めずに開けっ放しになっている。
「伸ちゃん、起きてる?」
『伸ちゃん』は叔父さんの名前で、正しくは伸一だ。ボクのお父さんは真司で、次男だ。
なんだか、ふたりとも親が適当につけられた名前に思えてならない。
縁側から覗くと、万年床に伸ちゃんが仰向けに寝ているのが見えた。
扇風機がゆっくり顔を振っている。
「変なやつが来たな」と、部屋の隅から男の声がした。
聞き覚えのない声だった。
見知らぬ男がひとり、コントローラーを握ってテレビゲームをしている。
黒いジーンズに『千発百中』とプリントされた白いTシャツを着ていた。
若いのか年寄りなのか、分からなかった。
「伸ちゃんの友だち?」
男は驚いたように、ボクの目を見た。
「ふーん、見えるのか」と、男は言った。
伸ちゃんは寝返りをうったけど、起きる気配はない。
「友だちみたいなものでもあるし、なんて言えばいいんだろう」と、男は首をかしげた。
妙なオーラというか、気配を持った男だった。伸ちゃんの知り合いにも覚えがない。
「誰なの?」
「神さま」
そう言うと、神さまはゲームの続きを始めた。
つづく
文:川はともだち 代表 紙本櫻士
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