能が進化している。僕たちはどうですか?
「河川敷で薪能をしよう」
と思いついた時、僕は能楽堂にある能舞台を再現しようと考えた。
素材は強化ダンボールだけどね。
能楽師が登場する橋掛かりがあって、バックに松の木があるヤツだ。
で、舞台監督と一緒に能楽師・辰巳満次郎さんに会いに行って打ち合わせをした。
「能舞台をつくりたいんですけど…」
「松なんかいらないんじゃないの?」と、満次郎さんが言った。
舞台のラフが描かれた図面をを見ながらである。
「昔は外で演じてた名残が、松なんです。室内に移って舞う時、あたかも野外で開催されているがごとく松が描かれている。折角、河川敷でやるのに、描かれた松なんか持ってきたら、本末転倒なんじゃないかな。バックは、借景がいい」
「柱と橋掛は?」と、僕は訊ねた。
「あってもいいし、なくてもかまいません。何にもない芝の上で、演じることもできますよ。空に、中秋の名月があれば十分です」
写真は、マンションがバックで光っているシーンだ。
演目は『黒塚』だけど、ちょっとありえない光景である。
けど、新鮮な驚きを感じずにはいられない。
進化を始めた能は、とてもチャーミングだ。
もともと野外でやっていた能が、数百年後、淀川河川敷に戻ってきた。
松が茂っていた場所には、マンションが建っている。
現代の能のバックには、現代の風景が似合う。
伝統を継承する古典芸能に、新しい切り口が生まれた瞬間である。
「そうか、僕たちは何をやってもいいんだ」と、『千人の月見の宴』をやりながら、僕は思っていた。
自由な発想が僕たちを豊かにしていく。
勝手に自ら縛られている場合じゃないのだ。
今回、満次郎さんから、教わったことだ。
文:川はともだち 代表 紙本櫻士
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