ローテクが、素晴らしい。
録音で自分の声を聞くと、
「こんな声じゃない!」と、誰もが思うだろう。
毎日聞いている自分とは別人の声に聞こえるからだ。
当然、他人が聞いている声が、スピーカーから流れる声だけど
「どっちが本物か?」
は、どちらも本物ではないだろうか。
僕は取材を仕事でする。
雑誌だったり、新聞だったり、たまにWEBだったり。
取材の時は、録音しながらノートにメモを取る。
録音は便利だけど、それに頼ると時間がかかる。
テープ起こしは大変な作業なのだ。
それでも、取材にはかかせない。
証拠も残せるし、言った、言わない、を防ぐことができる。
取材を終えた後、僕は、電車の移動中に録音ができているのかを確認した時のことだ。
取材時も、赤い録音ランプが点いていたので、声を確認するくらいだと思っていた。
レコーダーを電話機のように耳元に寄せて聞くと、
「サーーーーーーーーー」という、砂が流れ落ちるような音しかしない。
これには、焦った。
僕の顔も、サーーーーーーーーーっと青くなっていたに違いない。
ボタンに振れると録音が始まる、当時の最新式の機種だったのに。
ランプが点灯していたのに、なぜか録音されていなかったのだ。
とはいえ、人間の記憶力はスゴイ。
ノートに書いたキーワードを元に、取材で聞いたことは、ほぼすべて思い出すことができたのだ。
自分でも驚いたくらいである。
最初から、ノートに取材内容を書き起こせたのだ。
テープで「ガチャ!」と、録音する機器がいい。
目に見えてテープが回っているのが分かるし、巻き戻して聴き直すのも簡単だ。
ICレコーダーだと、すべて消えてしまう恐れがある。
テープなら、例え切れても、セロテープなんかで修理できたりするし…。
カメラマンの宮地さんに、この話をしたら「自分にもある」と言う。
取材撮影でのことだ。
「何か分からないけど、カメラに違和感があったんだ。それで念のために、別のカメラで同じ写真を撮った。余計な仕事なんだけどね」
後で調べたら、違和感のあったカメラのシャッターが何千分の一くらいの誤差で、正常に動いていなかった。人間には分からない精度だけど、そのカメラで撮った写真は使えません。危ないところだったんだ。あれは、本当にやばかった。俺のせいで、海外で撮り直しなんかしたら、死んでたよ」
ローテクは、違和感を人間に気づかせてくれる。
ブラックボックスのハイテクの故障は、人間には分からないけど。
プロの仕事についても考えさせられた。
「何かあるかもしれない」
と、予想しトラブルを回避できるのが、プロである。
素晴らしい作品が撮れたり、演奏できるのは当たり前で、
「何か」があった時、(トラブルを予想し)適切に対処できるないのは、素人だと思う。
トラブルは、必ずあるのだ。
文:紙本櫻士
https://komezensen.jimdofree.com/
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