黒人の街、シャウマット

異文化の中の異文化。

 

ボストンでの滞在先は、シャウマット(SHAWMUT)という、黒人たちが住む郊外の街だった。

田無とか、枚方市とか、東神奈川とか、そんな感じ。20分くらい電車に乗るとボストンの中心街に行けるベットタウンだ。

ここのシェアハウスを選んだのは、宿泊費が安いからだ。一泊5万円もする、中心街のホテルに泊まるのは貧乏な僕たちには無理だ。なにしろ、仕事で来てるんだし。

それに宿泊で出費するより、美味しいものを食べたい。

 

簡単ステージキット『ステージキッズ』が

採用された『ジャパン・フェスティバル・ボストン』は、明後日だ。

それまで、僕たちはボストンの観光を楽しむことにした。

 

今日は買い出しして(バカでかい業務用風冷蔵庫は空である)、

折角だから今夜からボストン観光もとは思っていたけど、時差ボケとニューヨークボケで、ぐったりである。

元気が出れば、後でボストンフィルを聞きに行こう! などと言ってはみたが、できればシャワーを浴びて、ビールを飲んで眠りたかった。

「ボストンフィルに行かないか?」と僕が訊くと、

「勝手に行ってくれよ」と、事務局の広瀬が面倒くさそうに応えた。

 

さて、まずは買い出しに行かないと、ビールもない。

僕たちは大家さんに教えてもらった地元のスーパーに行くことにした。

時折、窓の外で大音響でラップを流すクルマが通った。

隣の公園で、バスケットボールをする黒人の少年たちが窓から見える。

 

スーパーは歩いて8分くらいの場所だ。

「庭の手入れが雑だし、ペンキも塗ってない家が目につくね」と、途中、歩きながら不動産屋社長の広瀬が言った。

そう言われると、なるほどと思う。ここは、アッパーな地域ではないのだろう。

家の前にゴミ捨て場があって、黒人の女の子人形と玩具の家が捨ててあった。リカちゃんハウスみたいな玩具の家だ。ここでは、遊ぶ人形も黒人らしい。

 

なだらかな坂を登ると、白い教会が建っていた。

敷地に入っていいのだろうけど、よそ者を拒む空気が流れているように感じた。

横に細長い広場に、年老いた黒人のおじさんたちが酒盛りをしている。すえた汗とアルコールが混じった匂いが、辺りに漂っていた。

空になった缶ビールが、ベンチの上に置き去りにされている。

ハリウッド映画でよく見かける、エディーマーフィーなんかが歩き回る黒人街の風景だ。

にこやかに「ハイ!」と、挨拶をしたいところだけど、僕たちは足早に前を通り過ぎた。

「ちょっと怖いね」と、早足で広瀬が呟いた。

 

教会の前は、シャウマットの中心街のようだった。

マクドナルトがあり、レストランがあり、なんだか分からない店が並んでいる大通りだ。

スーパーは、ほぼ、コストコだった。

数日滞在する僕たちには、どれも多すぎるし大きすぎる。

枕みたいなチーズとか、バケツみたいな牛乳パックや馬に食わせる量のハッシュドポテトとか…。

僕は、日本では見かけないバカでか・イチゴといつものコカコーラ、バカでかソーセージとパンを買った。ソーセージは美味そうだ。

今夜の食い物である。

 

最重要のビールがない。

広い店内を探したけど、ない。

「ビールは?」と、僕はレジの女の子に聞いてみた。

「マクドナルドの坂を降りたところに、お酒売ってるわ。ここにはないのソーリー」と、彼女は外を指差しながら笑顔で教えてくれた。褐色の肌をしたスタイルのいいティーンエイージャーだ。

「日本人?」

「今日ついたんだ。ありがとう」

僕がそう言うと、彼女は早口で何かを言った。聞き取れないのが悔しい。

 

僕たちは、重いコンビニ袋を両手に下げて酒屋に向かった。

坂の途中に、それっぽい店があり入ってみる。

黒人の若者がふたり、店の外の白い壁にもたれかかってダベっていた。

中に入ると黒人の店員が3人ほど働いていた。キビキビというより、ノロノロな感じで。ビールやワイン、ウイスキーの箱が積み上げられた店内は狭く、すれ違うのがやっとだ。

ワインの値段が安い。安売りの店なのか、ボストンではアルコールが安いのかは不明だけど。

広瀬が、数日分のバドライトとワインの赤二本を持ってレジで支払おうとすると、

「身分証明書がないと、売ってくれないみたい」と、困り顔で言った。

「なんかないの?」

「免許証があるよ」と、広瀬は財布から免許を取り出した。

「昭和って、書いてるよ」

「うるせーな。気合で買えるんだよ」と、広瀬が言った。

 

やり取りを見ていた白髪の黒人店員が(たぶん店主だ)、

「日本人だろ。オーケー持ってきな」と、笑顔で広瀬に言った。

シャウマットの人たちは、みんな人懐こくて明るい。いい街かもしれない。

 

シェアハウスに戻ると、ぐったりで、ビールを飲んでシャワーを浴びるくらいの元気しかなかった。

「街に出る?」

「勝手に行ってくれよ」と、広瀬が面倒くさそうに言った。

 

仕方なくデカイチゴと、買ってきたコーラを僕は部屋で飲んだ。イチゴがやけに酸っぱい。でも僕好みのイチゴだ。ブロードウェイで食べたイチゴと、たぶん、同じ品種だ。

コーラが、飲んでもぜんぜん減らない。まるで魔法のコカ・コーラだ。

2リットルくらいかな、と思ってカゴに入れたけど、見ると3.5リットルと書いてある。

やれやれ重いわけだ。アメリカは、なんでもデカイくて、大雑把なのだった。

 

文:川はともだち 代表 紙本櫻士

 

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