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交野新聞『僕の神様』9話

僕の神様 9

 

帰宅を急いでいた。
期末試験の最中で、世界史と古典が終わってないからだ。
『魚公園』の横を通ると、ブランコでスマホを覗いている伸ちゃんが見えた。
真っ赤な魚のジャングルジムが目立つ小さな公園だ。伸ちゃん以外の人影はない。
伸ちゃんは、色あせたブルーのジャージを着ていた。無精髭を生やし、タバコを吸っている。僕には失業者にしか見えない。実際、失業者みたいな人だけど…。
「何してるの?」と、僕は公園の入り口から、自転車に跨って声をかけた。
「腹減ったな」と、伸ちゃんがスマホから顔を上げて言った。
公園の時計を見ると、12時をまわっていた。
「試験が終わったんだ」
僕は、伸ちゃんに歩いて近づきながら言った。
「懐かしいな。中学は、期末試験か?」
「だーうえ、生徒会長になったよ。試験は明日まで」
伸ちゃんは、タバコを地面でもみ消して、吸い殻をジャージのポケットに入れた。

「俺も立候補するよ」
そう言うと、伸ちゃんはジャージのポケットからタバコを出して、火をつけた。
「何もしなくても、あっという間に10年が経つんだよ」と、伸ちゃんが言った。
僕は、伸ちゃんの横のブランコに腰掛けた。
なんだか、ブランコが小さくなった気がした。僕が大きくなったのかもしれない。
「大人の場合は、10年があっという間なんだ。亮ちゃんもそのうち分かる。なので、俺はカタノ市長に立候補する」
「なんで市長?」
選挙っていろいろあるよね。
「一番近い選挙が市長選挙だから」
僕は、ブランコの上に立って漕いだ。立ち漕ぎなんて久しぶりだった。錆びた音がギシギシと鳴った。
「市長は、当選が大変だと思うよ」
「だーうえは、当選した」
伸ちゃんは、くわえタバコでブランコをゆっくり揺らしながら言った。
「中学校の生徒会長とは、わけが違うって、たぶん」

「立候補には供託金と言うやつが100万くらいいる。俺は、10億円持っているからそいつは大丈夫だ。それに得票数が多いとお金が戻ってくるんだ」
「おじさんは、いま、お金持ちだからね」
「そいつを有効に使うアイデアなんだ」
入道雲が、山際からせり上がっていた。セミの声が狭い公園を覆う。夏の湿った空気に草いきれが漂っていた。
「カタノ市は問題山積みだぞ」と、伸ちゃんはブランコを漕ぎながら言った。
いま、スマホで得た情報らしい。
「神様は、面白いからやるべきだと言ってたぞ」
神様なら面白いから「やれ!」とか言いそうだった。
「直ちに、選挙対策本部を立ち上げよう」
伸ちゃんは、ブランコから飛び降りると、
「まずは、昼飯だ」と、伸ちゃんは振り返り、ブランコを立ち漕ぎしている僕を見て言った。

つづく

 

文:紙本櫻士

 

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